喫茶と読書 ひとつぶ

ひとつぶの席 9

昭和の住宅っぽいすりガラスの格子を背にしたこの席は、意外と人気があります。窓の景色も見えるし、背後も建具とはいえ、開けないので壁と同じですし。こちらの椅子は暖かそうな生地のほっこりした形です。これを買ったのはまだ暑くない時だったので、あまり考えなかったのですが、夏には少し暖かすぎる感じがするかもしれません。そういうことも考えないといけなかったんだなと後から思いました。ちょうど良い座り心地で、大好きなソファーです。色味もいい。テーブルはDIY作品。手元を照らす灯りはピンクのソファと同じものです。フットスイッチです。

この席と次にご紹介する席との間には低めの本棚があります。両方の席から見えるようにと、背を上にするように本をおいてしまっています。本にとってはあまりよくない置き方だと思うのですが。ここの本は、軽くコンセプトがあって、「オリエンタリズム」「エキゾチム」というようなことなのです。ヨーロッパやアメリカという西洋があって、日本がある。私たちはいつでも西洋に憧れている。世界には他にも様々な文化があるのに。朝鮮半島や中国のような近い東洋の国、インドやタイのような南アジア。ロシア、東欧、トルコ、バルカン半島、アフリカ、中南米、太平洋の国々、オセアニア。多分西洋から見たら、日本もそれらの国と一緒の、オリエンタルでありエキゾチックな国のはず。それなのに私たちは、ともすれば自分たちは西洋の国であるような錯覚をしている時がないでしょうか。そんな日本にとって、同じ根っこを持つはずの朝鮮半島や中国の文化はエキゾチックに、さらにいえば同じ国なのに、沖縄や奄美の文化さえ異国のものとして消費しているのではないでしょうか。

80年代にはエキゾチック・ジャパンという国鉄(!)の広告がありました。郷ひろみがCMソングを歌い、高野山の密教のイメージを使っていました。バブルで浮かれていた中で、経済は西洋に追いついた、これからは文化を持たなくては、そういう時代でした。西洋が見た日本を、自ら再構成していたのです。不思議な光景です。

私は勝手に、西洋と(現実の)日本以外についての本をここに集めてみました。エジプトやペルー、バリ、ハワイなど。文明論、神話もこちらにまとめました。そして「観光」。それこそが「エキゾチック」の概念を一番体現するものだからです。あくまでも外から見物するのみ。さて、今の自分にとっての異国とはどこなのか、これはとても面白いテーマだなと思います。

昔の雑誌や本ですが、誌上で「観光」してみてください。まだ世界は広い。いつかまた、旅立てる日が来るでしょう。お店の中でも少し奥まった感じの、でも窓の外も見えて安全な感じがする。そんな席です。