喫茶と読書 ひとつぶ

ひとつぶの席 10

これで1周です。ひとつぶの席。ソファーは前回のものと同じ。北欧テイストのウールのような張り地のものです。互い違いに配置されているので、こっちの席は壁を向いています。照明器具はペンダントで、三つ子のカウンターのものと一緒です。

そのペンダントの向こう側の壁に、本が立てかけられるようになっています。落下防止にゴムを張っています。

開店以来、ここの棚にはヨーガンレールの本が3冊並んでいます。写真集2冊と食堂の本。写真集はかなり前に買ったものです。海岸や砂地などに現れる植物や土のテキスチュアを写したもの。ヨーガンレールの服をご覧になったことがあるでしょうか?私が見たのは昔ですが、布の肌触り、ドレープ、色の移ろいなどがとても美しい服だったと記憶しています。そのデザインのおそらく源となったであろう、自然が見せる表情が、さすがという切り取り方でカメラに収められています。

少し前に銀座でマリメッコのデザイナーの方達の展示を見たことがあります。その時に日本の苔をモチーフにされている方がいて、苔の写真がたくさんありました。マリメッコで商業化されているデザインもとても良いのですが、その写真が美しく、面白く、見入ってしまいました。苔や地を這う小さな植物をとても美しいと思う時があります。それがテキスタイルになりデザインとなっていく感性が素晴らしいです。

そして『on the beach』という、これも写真集になるのでしょうか。晩年沖縄に住んでいたヨーガンレールが、海で拾ったものを集積した写真集です。これは続編もあります。3、4年前には金沢で展覧会もやっていたと思います。これを見ていると、彼の感覚の正しさが伝わってきます。今でこそ海に廃棄されるプラスチックの問題が大きく取り上げられていますが、そこに住んでいる彼らにとっては、もう随分前からの問題だったのでしょう。文明、自然、文化が立体的な文様のように編まれ、明暗を作り出しています。

そしてそのヨーガンレール社の社員食堂のメニューがたくさんレポートされている本。レシピとか献立の本が好きなので、これもずっと欲しかった本です。こんな社員食堂いいですね。

ヨーガンレールのことは、あまり知りません。しかし、ここにある3冊の本を眺めただけでも、その美意識と社会性はとても先見性があって、優れていたことがわかります。どんな人だったのか、なぜ日本にとどまったのか、沖縄に移住したのか、そんなことをもう少し知りたいです。夜の静かな時間に、お店の中心でもあるこの席で、異国で亡くなったポーランド生まれのドイツ人のことに思いを馳せるのもいいかもしれません。

これでひとつぶの席のご紹介は全て終わりました。気になる席はありましたでしょうか?それぞれに個性や物語のある席かと思います。今はまだ私の勝手な思いだけですが、たくさんの人に座ってもらって、いろいろなエピソードを刻んでいってもらいたいです。ぜひ実際に座ってみて、ひとつぶを体験してみてください。お気に入りの席を見つけて、育ててやってください。どうぞよろしくお願いします。