喫茶と読書 ひとつぶ

ひとつぶの席 2

チェスターフィールドのお隣は黒のカリモク60です。日本の名作チェアーですね。日本人の体格や住宅事情にピッタリ合った、小ぶりながらゆったりと座ることのできる、たいへんよい椅子です。モダンでもクラッシックでもどちらの雰囲気にも似合うし、こうやって表現してみると、全方位的な満点チェアーなんですね。

今回はこちらのクラッシックなゾーンで、書斎的な雰囲気を纏ってもらいました。手元には古典的な照明を置きました。台座についているスイッチを回して点灯します。もともと明るさは上部の照明で取れていますので、手元の補助照明としてご使用ください。

この席の周囲には、マルセル・デュシャン、未来のイブの関連の本があります。デュシャンはご存知20世紀の偉人の一人ですが、一時期夢中になり、その時にちょうど『夜想』という雑誌でミッシェル・カルージュの『独身者の機械』という本のことを知り、のめり込んだ感じです。当時は翻訳がなく、フランス語版を購入し辞書も買いましたが、太刀打ちできませんでした。訳で読んでさえ難解ですのに、何に挑戦したのでしょうか。その後高山宏さんの訳で日本語版が出版され、購入していました。今回調べていて、その後新島進という方の訳で新訳版が出版されていたのですね。こちらは全然知りませんでした。新版なのですが、こちらの方が手に入れるのが難しそうです。巻末に訳者による解説があるようで、初音ミクにも言及されているらしく、興味があります。

1950年代に書かれたものが、いまだに現代を読み解く時に有効であるというのはすごいですね。「独身者の機械」という概念はまだ生きているということでしょうか。VRやAI、ネットもそうですが、仮想現実が身近になってきている現代だからこそ、紐解けることもあると思います。1990年代には異端のファッション的に特集されていた「独身者の機械」「未来のイブ」でしたが、もっとポップな存在になりつつあるのでしょうか。

人とは何か、感情とは、心とは。何年か前の紅白で美空ひばりさんのVRの映像が話題になりました。人間の再合成は可能であるのか?SFの世界がしれっと現実に入り込み初めています。昔読んだ、子供用の本の中の「これが未来の世界!水中にも空中にも宇宙にも街が!」みたいなドラマティックなものではないけれど、少しづつ変容してきていることは確かです。変化は変化、進歩は進歩として、拒絶するつもりはないけれど、そういう時に問い直される人間の条件みたいなことには敏感でいたいと思います。それはただの形而上学的な遊びかもしれない。でもそういうことを考えるのは楽しいことだと思うのです。

さて、話を戻しますと、この席はテーブルも広いですし、いろいろ広げての作業もしやすい席です。また、ここは後ろに本棚があるため、他の席からの視線が(隣の席以外)遮られていますので、何かに没頭するには最適かと思います。カウンターからも死角になってしまうため、ご用の場合は呼んで下さいね。