20210310
『ストーナー』読了しました。よい小説でした。教養小説というのでしょうか。人が生まれて死んでいくまでの人生の物語。特別大きな願いをするわけでもなく、身の丈に合った生涯。苦しいことも楽しいことも素晴らしいこともある人生。義務を果たして、運命をそっと受け入れる。そういうひっそりとした物語でした。もっと気概を持ってもいいじゃない、とか、運命に抵抗しないの?とか、途中思いました。そんなふうに物語と対話しながら読み進んでいきました。彼の生き方が、どうだったのか、そんなことは多分どうでもよくて、私の中にストーナーという男性が、読んでいる間存在し続けた。そういう本でした。
小説の多くは、ある出来事の始まりから終わりが描かれることが多いかと思います。推理小説などは、その最たるものかも。私も普段そういうものを読むことが多いのですが、この本を読んで、人の歴史を描く物語を随分読んでいなかったのかもしれないと思いました。伝記というのともちょっと違います。偉人ではなくて、普通の人を描くもの。歴史小説にはあるかもしれないですね。
そして、これは翻訳が良いからなのか、原文がそうなのか、独特の言い回しが全体にあったように思います。人物や出来事に対して、どこまでも客観的であろうとする眼差し。読者として、どう判定しようか、というときに、参考になろうとしない文章でした。
例えば、ストーナーは大学生の時に、下宿している親戚の家でとても働かされます。それは結構大変なんじゃないかなという感じなのですが、それが大変なことのようには書かれていないのです。何をやらされて、そのために時間がなくなって、というような描写が積み重なっていくのです。でも、ストーナーがそれを愚痴ったり、辛いと思ったというような描写はありません。なので、私という読者は、この時代ではそれは割と普通のことであったのかな、それに加えて、ストーナーは文句を言ったりする質ではないのだなと、読み進んでいったのです。
そうやって丁寧に描写が積み上げられていって、1冊の本がストーナーの人生の側面を表した、という感じです。小説にできること。その一つがこういうことなんだなと、思いました。
本日ご来店いただいた皆様、ありがとうございました。今日は風がすごかったですね。気がついたら止んでいました。楽しい1日でした。明日も良い1日になりますように。今日みたいにすごい風ではないといいなあ。それではおやすみなさい。