20210108
ネヴィル・シュート『渚にて』読了。途中から夢中になって読みふけりました。そして、ずっと胸が締め付けられるようだった。
第三次世界大戦後の世界。北半球は放射能に覆われていた。舞台はまだ放射能に侵されていないオーストラリア。北半球からのガソリンの供給などがないため、人々は馬車に乗って生活をしている。何世紀も前に遡ったような不思議な生活。そして、その日常にも放射能の暗い影が落ちてくる。
いつかはここも汚染される、そのいつかは確実ないつか。それを信じずに来年の為に畑を作る妻。何もわからない乳児。妻子を心配する海軍勤務の夫。続いていく日常の中で、少しづつ現実が迫ってくる。それがとても切ない。
この小説は核爆発による放射能で世界が死んでいく話だけど、今日から緊急事態宣言下となったこの首都圏の中の小さな町の小さなお店の中で一人ぼっちで読んでいると、人ごととは思えない。放射能のように、ウイルスも目に見えない。そして知らないうちに汚染される。もしも数週間後に命をなくすということがわかっていたとして、自分はどんなふうにそれを受け止められるのだろう。平静でいられるのだろうか。そんなことを考えながら、物語に引き込まれていきました。
1957年という冷戦の時代に書かれた物語だから、核戦争が原因で世界が滅んでしまうのだが、今の時代だから、世界が滅びる要因は戦争ではなくなった。それでも、抗いがたい大きな力によって、普通の人々の日常が壊されてしまうということは同じなのかもしれない。
さて、本日ご来店いただいたお客様、どうもありがとうございました。また明日も短縮営業ではありますが、ひとつぶは小さな火を灯します。どうぞよろしくお願いします。それではおやすみなさい。