喫茶と読書 ひとつぶ

20250705

こんばんは!今日もなんとか一日が終わりました。今日は不思議と男性のお客様の多い日でした。たまにそういう日があります。どなたでも充実した時間が過ごせるお店でありたいです!

小川洋子さんの『サイレントシンガー』読了です。小説っていいなあと思いました。これを読んでいる間はどっぷりとその世界に入れて、いろんな感情のうねりに身を任せていました。素晴らしいです。読み終えて、余韻に浸りながら冒頭に戻ってみました。始まりはまるでおとぎ話のよう。『家路』という歌をバックにおばあちゃんと孫娘の生活が描かれます。ここで書かれる『家路』の歌詞が、私の記憶にある「遠き山に日は落ちて」というのではなくて、「響き渡る鐘の音に」となっていて、メロディーにはもちろん乗るので、あれ、こんな歌詞だったかなと思いながら読み進めてしまいました。今調べたら、いろんな方が作詞されていて、「響き渡る鐘の音に」というのは野上彰さんという方が書いたようです。この歌詞からこの作品が生まれたのかもしれません。

小川さんには『からだの美』というエッセイ集があって、私はそれを読んでいないのですが、読んでいないのにその本のことを思い出しました。『からだの美』は、「イチローの肩、羽生善治の震える中指、ゴリラの背中、高橋大輔の魅惑的な首、ハダカデバネズミのたっぷりとした皮膚のたるみ、貴ノ花のふくらはぎ、赤ん坊の握りこぶし――身体は秘密に満ちている。」という本です。これを書店で見て、買おうかどうしようかと思いながら、書いそびれていました。でも、小川さんらしい本だな、と思って記憶していたのですね。

他の小説でも、小川さんの身体に対するこだわりは随所にあって、だからあのエッセイ集の内容も読んでいないけど、なんとなく想像してしまう感じでした。久しぶりに今回の小説を読んで、その感覚を思い出しました。艶かしい、というのとも違う、機械の部品のように扱っているわけでもない、なんとも不思議に透明で有機的な身体の描き方です。全くうまく表現できませんが、私はそれを読むのがとても気持ちがいいのです。ひっそりとした冷たい体。すうっと消えていきそうな儚さが美しい。

この静かな作品の中に、ほんのちょっとだけ暴力が描かれています。悲しいことに、私はその暴力の側の人間なのかもしれない、という気がしました。もっと注意深く、誰のことも傷つけないで生きていきたい。大きな声で何かをかき消すような生き方はしたくない、と思いました。(『サイレントシンガー』小川洋子/文藝春秋/2025年6月)

さて、それでは帰ります。明日からは何を読もうかな。挫折した本に戻ろうか・・・いや無理か・・・。悩ましいです。それではまた明日。おやすみなさい。