喫茶と読書 ひとつぶ

20240829

また雨が降ってきました。今週はずっと雨に悩まされそうですね。皆様に大きな被害がないことをお祈りします。

さて、火曜日にとんでもないニュースが飛び込んできました。SNSにも書きましたが、佐倉の川村美術館が来年1月下旬に休館するというものです。

「投資家などから資産効率の観点から見直しを求める声があがった。東京に移転し規模を縮小して運営するか、美術館の運営を中止するかを判断する。保有する美術作品の見直しも進める。

DICは長期的な企業価値の向上に向けて外部人材が助言する「価値共創委員会」を4月に設置し、美術館運営のあり方を議論してきた。委員会からの助言を受け、取締役会で助言内容を協議した。」

ニュースからの抜粋です。DICというのは旧大日本インキ化学工業で、川村美術館の運営会社です。千葉県の佐倉市に総合研究所があり、その敷地内にDIC株式会社が関連企業とともに収集してきた美術品を公開する施設として、1990年にオープンしています。

美術館の中には「ロスコルーム」という部屋があり、マーク・ロスコの<シーグラム壁画>と呼ばれるシリーズのうちの7点が展示されています。7点の作品がぐるっと部屋の中に展示され、中央には座って鑑賞できるソファが置かれています。照明は仄暗く、他の展示室とは異質な空間となっています。「ロスコルーム」は、世界に4つしかなく、しかも先日そのうちのひとつが水漏れか何かで展示ができなくなってしまったはずです。

川村美術館にはレンブラント、ルノワール、モネなど、有名なアーティストの作品もたくさんありますが、私たちがなかなか目に触れることのない、現代美術の作品も数多く収蔵されています。フランク・ステラ、サイ・トゥオンブリー、ジョゼフ・コーネルなどなど。シュルレアリスム関連もたくさんあって、マックス・エルンストの素晴らしい作品があります。

私は5、6年前に初めてここを訪れました。入り口付近にある、ステラの巨大な作品が、当時私が勤めていた産廃の会社のヤードの景色を思わせ、思わず見入ってしまいました。川村美術館のHPのアーカイブを見ましたが、企画展に行ったのかどうか、記憶が定かではありません。覚えているのは、部屋を巡り、ロスコルームに入った時の衝撃です。ロスコという人や作品はなんとなく知っていたものの、実物を見るのは初めてで、圧倒されました。作品は写真で見ているだけではダメなんだ、と初めて思いました。ひとつひとつの絵の前で、そのタッチや色彩を目で追いながら、なぜか興奮している自分がいました。

その後も何度か訪れて、企画展をやっている時もあり、常設だけの時もあり、いつでも待ってくれている作品たちがいました。時折展示が変わったりすると、それも楽しく、自分の美術館なのだ、という気持ちになったりしていました。母とも、娘とも、友人とも行きました。庭園を散歩しました。レストランでお食事もしました。茶室でお茶もいただきました。毎回、坂を降りて、木の下をくぐると、白鳥が泳ぎ鴨が日向ぼっこしている美しい水辺の風景が迎えてくれました。

企業の論理、投資家の思惑、いろいろなことが美術館の周りにはあるのでしょう。それについては私は外部の人間なので、何も言うことはできません。ただ、素晴らしい体験をさせてくれたあの美しい場所が、こんなにも突然に終焉を迎えてしまうということが、ただただ悲しいです。ロスコルームに向かうときに正面にある窓。薄暗い緑の借景。そこから2階にあがって、トゥオンブリーの部屋は明るくひらけた緑。内部だけではない、自然と共存したとても素晴らしい空間でした。あの空間を永遠に失うことは、本当に残念です。また、特に現代美術に力を入れてたくさんのアーティストや作品を紹介してくれたこと、それも大変な功績だったと思います。できればこのままの存続、最悪でもダウンサイジングを望みます。

火曜日の夜から、伝えられていることを理解することがなかなかできませんでした。今日になってようやく、SNSで検索したりDICのことを調べたりすることができました。いつもこの世の天国、と思って眺めていた場所。やはりそれは取り上げられてしまうのかしら。何かできることはないでしょうか。

それでは今日は帰ります。また明日もよろしくお願いします。おやすみなさい。